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コピー機 リースの悩みどころ

虚空を見つめるというのは、こういうことなんだろうか。 Jが挨拶もせずに、大股で入ってきたマルチラインの電話器を取り上げ、ぼくたちの目の前にある小さなコーヒーテーブルの上にどんと置いた内蔵ベルが一回、小さな悲鳴をあげた「Sスパリングはなんと言っていた?」「えっ」ぼくはまだ霧に包まれていた「アネアスのSスパリングだ」「ああ、ハーバード出の人ね、話をしたのは、ずいぶん前だな。
値段が高すぎると言っていたような気がする」「どれくらいなら高すぎないと言ったんだ」Jは、鋭い質問をこともなげに投げつけてくる。 それでいつも、こっちはまごついてしまう。
三人は顔を見合わせた答えを探そうとしていたのではない。 Jが何を言い出すつもりなのかと、そればかり考えていた「よくわからない」ぼくは答えた。
Jはスピーカーのボタンを押すと、ダイヤルしはじめた「聞いてみろ」「Jボストンは夜の八時を過ぎているもう家に帰っているだろう。 Jはぼくの目を見つめた無表情だった。
スピーカーホンから、ベルの音が響き、女の人が電話に出た。 Sスパリングの奥さんらしい赤ん坊の泣き声が聞こえる「もしもしSはいますか」「少々お待ちくださいいま、膝の上に赤ちゃんを乗せているもんですから」声がとぎれた「もしもし」スパリングの声だった。
「SJDだ。 いまここにGOの経営陣がいる」「やあ、ごぶさたしてます」家にまで電話をされて迷惑しているような声ではなかった。

「Sそろそろ話をまとめなければいけないんだが、リードがいないんだ。 意見を聞かせてくれ」「いくらなら、リドを引き受けてくれる」やさしく叱る声が聞こえた。
赤ちゃんは受話器を握って離さないようだ「プレマネで、八百万ドル」ぼくは早撃ちガンマンのように、ホルスターから電卓を抜いた「その線で、きみはいくら出してくれるんだ」「最高二百万ドル」Jは保留ボタンを押した。 残り時間をカウントダウンしていくクイズ番組の警告ランプのように、赤い光が点滅しはじめた「一株当たりでいくらになる」そう聞かれるのはわかっていた「約七五セント前回から二五パーセント、アップ」向こう側では、赤ちゃんが受話器の支配権を握り、いつ電話を切ってしまうかわからない。
JはRとKの方を向いた二人の顔は蒼白だった。 「きみたちもそれでいいか」二人とも口がきけなかった。
Sスパリングとは何か月も前から懸命に交渉してきで、いっこうに呼があかなかったことは二人ともよく知っている。 いま、たった一本の電話で、Jは話をつけてしまった。
Rはようやく我にかえり、あわてて首を縦にふった「こっちはオーケーだ。 ぼくは言った。
Jはふたたび保留ボタンを押した。 「S話は決まった。
Jーが明日の朝電話をするから、書類作業をはじめよう」「そうしようそのときまた」受話器の争奪戦はどうやら赤ちゃんが勝利を収めたようだった。 ぼくは言った「Sありがとう後悔はさせないから」Jは電話を切り、ぼくたちの方を向いて言った「おめでとう、諸君リードは決まった」そして、Jは急いで部屋を出ていった。
RとKはまだ電話を見つめていた死刑執行の直前に、州知事から電話が入り、特赦を告げられたような表情だった。 二人の顔にはみるみる生気が戻り、今度は赤くなってきた「ああまったく何をやっていたんだ。

値段を下げれば、それで済む問題だったんだ。 Rは手で顔をこすった「笑えばいいのか、泣けばいいのか」「こうしよう」Kが答えた「きみは笑ってくれぼくは泣くから」「さすが、チームワークがとれている」ぼくは、電話をJの机に戻しながら言ったその週は、金曜日までひたすら電話をかけまくった。
目標は五百万ドルだったのに、わずか数日間で六百万ドル以上も集まった。 副社長二人は手のひらを返したように、プロジェクトの計画に熱が入りはじめた雇用計画も息を吹き返した。
ハロウィーンには、社員全員がぼくの仮装をした。 ブルジーンズ、ネクタイ、毛糸のチョッキ、若白髪まじりの頭会社には活気がもどり、空気も俄然明るくなった。
ラシャボジノピックが意気揚々と一文無しでユゴから乗り込んできた。 荷物は、小さなトランクひとつだけだった。
とりあえず寝床が必要になるが、ぼくのガルフレンドが、リフォームしたばかりの「パシフィックハイツビクトリアン」の客聞をこころよく提供してくれた専用のバスルムを見せられたとき、ラシャは目を丸くした。 大理石と黄金で輝いていたからだラシャは何日もたたないうち、再放送されていた『富豪と有名人のライフスタイル』のファンになった。
会社の中をあれこれ論評して歩いていた出資の契約が正式に完了した。 のは、十一月中旬の給料支払い日の直前だった。
値段が提示されると、ほとんどが出資に応じたところがひとつだけあった。 これはこれは豪華絢欄とか、リチのアクセントそのままに、リードが決まり、現実的なただ、最後まで結論を出せない。
どの業界にも、見本市、大会、授賞式といった足跡をしるす年中行事がある映画界にはアカデミー賞、出版界にはピュリツア賞があり、コンピューター業界にはコムデックスがあるコムデックスは毎年十一月にラスベガスで聞かれるこの見本市を開催できる十分な施設をもった都市は、アメリカ広しといえどもラスベガスしかない。 見本市がラスベガスで開かれるという言い方は正確ではない。

まる一週間、ラスベガスが見本市になるのだ。 半径百キロ以内のホテルというホテルは、コンピューターおたくと、自動車のセールスマンから商売替えした。
コンピューターのセールスマンで埋め尽くされる新聞、テレビの報道陣がわんさと押しかける兵力もこれほど機敏に移動ができたらと、軍の司令官が羨ましがるほど、疾風怒涛のごとく集まってくる会議場でも、ホテルのロビーでも、展示場でも、いたるところにブースがひしめき、なんとか人目をひきつけようと、コンピューター各社が趣向を凝らし、壮絶にしのぎを削っている毎日八時間歩きまわっても、到底すべてを見ることはできない。 走りまわっても無理かもしれない人の流れに逆らうのは大変である人なのである。
ぼくは資金調達が成功した。 お祝いに、そのあとの土日は完全休養にあて、見るためにラスベガスに飛んだ。
一九八九年の秋のことだった。 ホテルにチェックインした。
あと(チェックインするだけでも大変だった。 )コンベンションセンターのメイン展示場に、閉場時間まで残るという戦略上の大失敗をしてしまった。
本日終了のアナウンスがあると、フットボールのグラウンドがいくつも入るようなばかでかいBの中にいた人たちが、おもてで待つバスをめがけて一斉に動きだした。 自の前には、ふぞろいの人の頭の海が疋洋と広がり、ぼくは身動きがとれないはるか彼方を見ると、メインロビの向こう、出口の向こうに、燃えるようなオレンジ色のベストを着た場外整理の人たちが、バスへ向かう人の奔流にあえなく呑み込まれていくのが見えた「行き先が同じ方向のバスにどんどんお乗りください」ハンドマイクがさかんに吠えているバス乗り場まで行き着けるとは思わなかったので、ほかに出口はないものかと、あたりを見回した。
そのとき、それほど離れていないところにJの姿を発見した。 彼もいらいらしているようだった。
奇遇としか言いようがないが、Jは運命をだまって受け入れるような男ではなかった。

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